夏目坂界隈 ~『硝子戸の中』その2~

喜久井町バス停夏目坂の地下鉄早稲田駅に近い場所に、喜久井町という町域が広がっています。弊社がある原町の隣町です。この喜久井町という名も漱石にゆかりがあるそうです。

私の家の定紋が井桁に菊なので、それにちなんだ菊に井戸を使って、喜久井町としたという話は、父自身の口から聴いたのか、または他のものから教わったのか、何しろ今でもまだ私の耳に残っている。父は名主がなくなってから、一時区長という役を勤めていたので、あるいはそんな自由も利いたかも知れないが……(岩波文庫版、pp.66-67)

漱石の父親も面白い人ですね。私は喜久井町のバス停の前を通るたびに、この一節を思い出します。

今日の夏目坂は冷たい雨が降っています。

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夏目坂界隈 ~やつで~

昼休みに外を散歩していると、やつでの白い花が目に留まりました。地味な花です。

やつで【八(つ)手】冬、白色の小さな花を多数円錐状につける常緑低木。葉は大きくて、掌状に裂ける。観賞用。

(『新明解国語辞典』第七版、三省堂、p.1525)

やつでの花

若松町バス停付近

やつではよく見かけますが、その花に注目したことはこれまで殆どありませんでした。冬に咲く目立たない花――ちょっといとおしくもありますね。

この後は八手の花と愛で生きん星野立子

(『俳句の花図鑑』成美堂出版、p.373)

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夏目坂界隈 ~コスモス~

コスモス

夏目坂から裏路地に入った民家の玄関先に、コスモスの鉢植えがありました。11月末の寒さの中、鮮やかに咲いています。

コスモスを離れし蝶に谿(たに)深し水原秋櫻子

(『365日で味わう美しい季語の花』誠文堂新光社、p.192)

コスモスのゆれかはしゐて相うたず鈴鹿野風呂

(『俳句の花図鑑』成美堂出版、p.341)

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夏目坂界隈 ~『硝子戸の中』その1~

漱石誕生之地碑弊社が入っているビルは、地下鉄の早稲田駅前から延びる夏目坂通りという坂道に面しています。坂の下の吉野家の前には「夏目漱石誕生之地」の碑があります。

なんでも、漱石の父親が自分の姓に因んでこの坂に名をつけたのだそうです。漱石の『硝子戸(ガラスど)の中(うち)(大正四年に新聞に連載)という作品に次の一節があります。

父はまだその上に自宅の前から南へ行く時に是非とも登らなければならない長い坂に、自分の姓の夏目という名を付けた。(岩波文庫版 p.67)

私も毎朝この坂道を上って通勤していますが、文豪ゆかりの地に会社があるというのは、ちょっと嬉しい気がしますね。

夏目坂『硝子戸の中』には漱石が生きた時代の弊社の近辺の様子がいろいろと書かれています。これから何回かに分けて紹介していきましょう。

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